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SATOSHI SODA ACHIEVEMENTS

周産期医療への貢献

CONTRIBUTION

医師 宗田 聡
周産期マニュアル

「周産期マニュアル」はなぜ生まれたのか

SPECIAL INTERVIEW

総編集者・宗田聡院長が語る、ボストンでの出会いから日本版完成まで

2023年6月、南山堂より刊行された『周産期マニュアル〜胎児疾患の診断から管理まで』。総編集を務めた広尾レディース院長・宗田聡が、ボストン留学時代の出会いから出版の舞台裏、これからの周産期医療への想いを語ります。

はじめに

「周産期マニュアル」とは、お腹の赤ちゃんに見つかる病気(胎児疾患)について、診断・治療・出生後の見通し・ご家族への説明までを疾患ごとにまとめた、医療者向けの専門書。2023年6月に、南山堂から『周産期マニュアル〜胎児疾患の診断から管理まで』が刊行されました。総編集を務めたのは、東京慈恵会医科大学産婦人科教授の佐村修先生と、広尾レディース院長・茨城県立医療大学客員教授の宗田聡です。

本書は全774頁。産科、小児科、新生児科、小児外科、遺伝医学などの専門家が、超音波検査などで胎児に所見が認められた際の診断、妊娠中の管理、出生後の経過・治療、予後、遺伝カウンセリングまでを、疾患ごとに整理した医療者向けの専門書です。一般向けの診療ガイドではなく、医療者が胎児疾患への対応を検討し、妊婦さんとご家族へ説明する際に参照する実用書として編集されています。

第1章

原点はボストンの研究室

――そもそもの始まりは、アメリカ留学時代だったそうですね。

1999年に文部科学省の在外研究員として米国のボストンに渡り、Tufts大学New England Medical Center(NEMC)遺伝医学研究室に所属していました。研究室を率いていたのは、胎児・出生前遺伝医学の研究を牽引してきたDiana W. Bianchi教授(米国立小児保健発達研究所〔NICHD〕所長※)です。

 

あるとき、教授らが執筆中だった『FETOLOGY』という本の、出版前の原稿を見せてもらう機会がありました。(『FETOLOGY』とは、胎児疾患を出生前から出生後まで一つの流れで捉え、産科、小児科、小児外科、遺伝医学などが連携して診療する考え方を示した専門書です。)拝見して、とても衝撃を受けました。当時の医学書は、産科なら産科、小児科なら小児科と、単独の診療科で完結する教科書が一般的でした。


ところがこの本は、産科・小児科・小児外科、そして遺伝の専門医が一緒になって、ひとりの赤ちゃんを『妊娠中から生まれた後まで』切れ目なく診ていくために書かれていました。 
こんな本は見たことがないと思い、これは是非とも日本語に翻訳して、日本の医療者にも読んでもらいたいと思いました。

――Bianchi教授には、どう切り出したのですか。

思い切って、翻訳して日本語版を作りたいと直接相談したら、笑顔で快く了承してくれました。そして何より嬉しかったのは、同じ研究室に留学していた佐村修先生(現・東京慈恵会医科大学産婦人科教授)も『自分も同じことを考えていた』と言ってくれたことです。そこから、私たち二人の長い共同作業が始まりました。

※肩書は『周産期マニュアル』刊行時(2023年)のもの。

第2章

「翻訳専門書は売れない」の壁

帰国後、二人を待っていたのは、出版界の厳しい現実でした。

いくつもの大手医学書出版社に企画書を持ち込みましたが、答えはどこも同じでした。『翻訳書は利益が薄い』『分厚い本は売れない』『マニアックな専門書は売れない』と、門前払いの連続でした。

 

――それでも諦めなかったのですね。

はい。もちろん、あきらめませんでした(笑)。唯一、話を前向きに聞いてくれたのは、南山堂さんでした。担当者さんとは以前、月刊誌の仕事を何度もご一緒していた縁がありまして、ご相談したところ、社内で上司に掛け合ってくださって、何とか出版のOKまでこぎつけました。

ただ、そこからが本当に大変でした。当時の医学出版の常識では、翻訳は専門の翻訳会社に外注する方式でしたが、これでは莫大な費用がかかってしまうのです。1ページ1万円が相場で、この本は1000ページ超えてましたので現実的ではありませんでした。」

 

そこで宗田院長が思いついたのが、映画制作などで使われる「制作委員会方式」でした。

意欲のある現場の先生方に協力していただき、20数名で手分けして翻訳する『翻訳委員会方式』です。これで費用を大幅に削減でき、ようやく出版にこぎつけました。ただし今度は、20数名それぞれの日本語訳の癖をどう統一するかという課題が生まれます。佐村先生とダブルチェックしながら、それこそ『てにをは』のレベルまで確認して、日本語として読みやすさにこだわって監修しました。

こうして誕生したのが『ニューイングランド周産期マニュアル』(南山堂、初版2002年)です。分厚い専門書でありながら多くの医療者に愛用され、米国での原著改訂(2010年)を受けて、翌2011年には異例の早さで改訂2版が刊行されました。異例の早さの理由も、米国で原著改訂が動き出した時からボスであったビアンキ教授がすぐに連絡してくれたことで、初動が早かったことにあります。

 

――その後、なぜ「日本オリジナル版」を作ることになったのですか。

改訂2版から10年以上が経ち、日進月歩の周産期医療に対して、内容が時代遅れになってきていた為です。ところが残念なことに、本国アメリカでは次の改訂版の予定がないという知らせが届いたのです。

それなら発想を変えて、日本の専門家の力を結集し、最新の画像診断や遺伝情報を含めた、

日本の臨床現場ですぐに役立つものを一から作ろう――そう決断しました。

海外の翻訳書ではなく、日本の医療制度や診療の実情に即した、日本人による日本人のためのマニュアルです。

第3章

赤ペンからクラウドへ

盟友・佐村修先生と歩んだ20年

総編集を共に務めた佐村修先生(東京慈恵会医科大学産婦人科教授)は、ボストン留学時代からの盟友です。

佐村先生とは、研究室で実験の合間に議論をしたり、一緒にランチに出かけたり。休日は家族ぐるみでアメリカ生活を楽しみました。子どもたちも同じ年代で、本当にいい時間でしたね。あの頃に気心が知れていたからこそ、その後の監修作業も阿吽の呼吸で進められたのだと思います。

 

――初版翻訳の頃の思い出はありますか。

初版のときは、すべて紙の編集作業でした。印刷した大量の原稿に赤ペンで加筆修正していく。最後の追い込みでは、作家がホテルに缶詰になって編集者と原稿をチェックする、という噂に聞いていた光景を、まさか自分たちがやるとは思いませんでした。

当時広島にいた佐村先生が週末に東京へ出てきて、編集者さんと一緒にホテルに泊まり込み、朝まで原稿チェックをしたのです。今となってはいい思い出です。

 

――その後の『周産期マニュアル』では、作業環境も様変わりしたそうですね。

はい。全国から届く先生方の原稿ファイルを、クラウド上で編集者と共有して、どんどん加筆修正していく。パソコンやiPadさえあれば、いつでもどこでも仕事ができました。20年でこんなに変わるのかと感動したのを覚えています。ただ、変わらなかったのは編集方針です。著者が自説や自験例を語る本にはせず、すべての疾患で記載項目のフォーマットを統一し、最新の知見を簡潔にまとめる。徹底して『臨床現場で引ける実用書』であることにこだわりました。

 

執筆には、産科・小児科・新生児科・小児外科・遺伝医学など、全国の専門家が参加しました。まさに全国の専門家が所属の垣根を越えて連携する体制となりました。

 

刊行した2023年は、佐村先生が教鞭をとる東京慈恵会医科大学が日本産科婦人科学会の学術講演会(第75回)を主催した年でもあり、不思議なご縁を感じました。そして何より、ちょうど還暦前後という人生の節目に、この大仕事を二人でやり遂げられたことが、一番嬉しかったですね。

第4章

「日本初の本格マニュアル」が臨床現場で目指した役割

――日本版の『周産期マニュアル〜胎児疾患の診断から管理まで』はどのような書籍なのでしょうか?

『周産期マニュアル〜胎児疾患の診断から管理まで』(南山堂、2023年6月刊、全774頁)は、妊婦健診の超音波検査や出生前検査などを契機に胎児の疾患が疑われた際、診断の進め方、妊娠中の管理、出生後の治療・経過・予後、遺伝カウンセリングを疾患ごとに確認できるよう編集された専門書です。


一般の方には、こんな場面を想像していただくと分かりやすいかもしれません。妊婦健診で「赤ちゃんに気になる所見があります」と言われたときに、担当の医師が、その病気の診断の進め方、妊娠中の管理、生まれた後の治療と見通し、そしてご家族にどう説明し支えるかをすぐに調べるために開く本。それがこのマニュアルです。

――こちらの専門書で大事にしたことは何でしょうか?

大事にしたのは、『患者さんやご家族から受ける相談に、その場で応えられる』ことです。脳や心臓の病気から染色体の変化まで、約130の項目を体系的にカバーしました。紙の本でありながら、QRコードから超音波の動画を見られる仕掛けも入れています。静止画では伝わらない動きの所見を、その場で確認できるように工夫しました。

――先生が目指した「この専門書の役割」とは何でしょうか。

全国の周産期センターの先生方が、同じ考え方と最新の医学情報で、赤ちゃんの病気と向き合えるようになること。これに尽きます。どこの地域で生まれても、赤ちゃんとご家族が同じ水準の医療と説明を受けられる。そのための共通言語になる本であってほしいと思っています。

 

この考え方は、宗田院長が日頃から診療で掲げる「1000人に1人の重篤な疾患を見逃さない」という姿勢と、まっすぐにつながっています。

第5章

検査の先にあるもの

これからの周産期医療への想い

胎児診断の技術は、今も進歩を続けています。その象徴が、妊婦さんの採血だけで赤ちゃんの染色体の変化を調べられるNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)です。実はこの検査の土台となる研究にも、宗田院長は縁がありました。

 

――宗田先生はNIPT(新型遺伝子診断)開発にも深く関わっているとお聞きしていますが。

はい。NIPTの基礎となる研究は、まさに留学先のボストンの研究室で行われていました。また、当時、佐村先生と一緒に私も関わっていました。それが時を経て、世界中の多くの妊婦さんが受けられる検査になった。医学の大きな進歩を、間近で経験しました。

 

――一方で、出生前検査をめぐっては課題も指摘されています。

私が一貫して申し上げているのは、『大事なのは検査そのものではなく、その結果と、医療とご家族がどう向き合っていくか』ということです。

検査だけを行って、結果が出た後の説明や支援を十分に行わない――

そうした診療のあり方が、近年問題になっています。医療の進歩に制度が追いついていない部分もある。だからこそ、検査の前後にきちんとした遺伝カウンセリングがあり、結果を受け止めるご家族に寄り添う体制があることが、何よりも大切と考えています。

 

――宗田先生はカウンセリングにも非常に力を入れていらっしゃるとお聞きしてます。

宗田院長は、日本産婦人科医会先天異常委員会委員長や、出生前検査認証制度等運営委員会のワーキンググループ委員として、国レベルの制度づくりにも携わっています。同時に、『これからはじまる周産期メンタルヘルス』(南山堂)などの著書を通じて、産後うつをはじめとする妊産婦の心のケアにも長年取り組んできました。

赤ちゃんの病気の告知は、ご家族の心に大きな影響を与えます。胎児診断と、妊産婦のメンタルヘルス。この二つは、私の中では別々のものではなく、『妊娠・出産に向き合う家族を支える』というひとつの医療です。

日本の周産期医療の現場は、献身的な医療者たちの努力に支えられていますが、その頑張りだけに頼る仕組みには限界も来ています。現場の実情に合った制度や支援へと、社会全体で変わっていってほしい。そのためにできることを、これからも続けていきます

 

広尾レディースの日常診療、妊婦健診、出生前検査の相談、遺伝カウンセリング、などには、この一冊に込められた思想が、そのまま息づいています。

周産期マニュアル
書名:周産期マニュアル〜胎児疾患の診断から管理まで

総編集:佐村 修(東京慈恵会医科大学産婦人科 教授)

    宗田 聡(広尾レディース 院長)

出版社:南山堂

発行:2023年6月/四六倍判・774頁

ISBN:978-4-525-33201-3

※価格・詳細は南山堂公式サイトをご参照ください

FAQ

よくあるご質問

Q.『周産期マニュアル』とはどんな本ですか?

お腹の赤ちゃんに見つかる病気(胎児疾患)について、診断・治療・出生後の見通し・ご家族への説明までを疾患ごとにまとめた、医療者向けの専門書です。東京慈恵会医科大学の佐村修教授と広尾レディースの宗田聡院長が総編集を務め、2023年6月に南山堂から刊行されました。

 

Q. 総編集の宗田聡先生はどんな医師ですか?

筑波大学で遺伝医学の博士号を取得後、米国タフツ大学に留学。茨城県周産期センター長・筑波大学臨床准教授を経て、2012年に広尾レディースを開院しました。産婦人科専門医、臨床遺伝専門医・指導医であり、日本産婦人科医会先天異常委員会委員長を務めています。

 

Q. 一般の妊婦でも読めますか?

購入・閲覧は可能ですが、医療者向けの専門書であり、個々の妊娠経過を自己判断するための本ではありません。胎児に関する所見を指摘された場合は、担当医、周産期医療の専門施設、遺伝カウンセリングなどへ相談してください。

 

Q. 広尾レディースで出生前検査や遺伝カウンセリングの相談はできますか?

はい。臨床遺伝専門医である院長が、出生前検査(NIPTなど)に関するご相談や遺伝カウンセリングに対応しています。詳しくは当院ウェブサイトをご覧ください。

宗田 聡

語り手プロフィール

宗田 聡(そうだ・さとし)

広尾レディース院長/医療法人HiROO理事長。1988年筑波大学卒業、1996年同大学院博士課程修了(遺伝医学)。1999年より文部科学省在外研究員として米国タフツ大学遺伝医学特別研究員。茨城県周産期センター長・筑波大学臨床准教授を経て、2012年広尾レディース開院。
医学博士。日本専門医機構認定産婦人科専門医、臨床遺伝専門医・指導医、日本医師会認定産業医。日本産婦人科医会先天異常委員会委員長、日本周産期メンタルヘルス学会評議員、出生前検査認証制度等運営委員会施設認証ワーキンググループ委員。

主な著書に『周産期マニュアル』(総編集)、『改訂・これからはじまる周産期メンタルヘルス』『EPDS活用ガイド』(いずれも南山堂)など。

​公開日:2026.7.22 最終更新日:2026.7.22

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主な功績、メディア出演

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